映画「風立ちぬ」

前評判通り「いい映画」でした。とはいえ賛否両論が分かれるかもしれないなぁというのも正直な印象です。そして不覚にも涙してしまったのも事実です。強いてジャンルに分けるとヒューマンドラマで、ハリウッドでリメイクするならトムハンクスあたりかなぁというイメージです。そんな空気感。

アニメーションはコクリコ坂から引き続いたジブリ感がただよっていました。リアルさよりも動きはすごく丸く(シャープではない)、色のトーンは濃すぎず、いい昭和の匂いを演出していたと思います。際の戦前の昭和を知らないわけですが、小説や伝記、祖父母から聞いていた話でイメージする昭和がそこにあったという感じです。
音楽の方は「紅の豚」再びといったところでしょうか。後でパンフレットに書かれて気づいたのですが、モノラルだったせいか実はあまり音楽の印象が薄いのです。その代わりセリフや効果音が聴きやすく印象に残っています。で、声優については特に評価が分かれるところなのですが、個人的には若手の俳優を起用しても良かったんじゃないかなぁと思います。庵野さんって知らなら良かったかもしれませんが、どう聞いても庵野さんな訳で。それを抜きにしても声に若さが出ていないんですね。西島さんはハマったと思いますけど、肉体的な若さは声に出てくるものですから、若手の俳優でもよかったと思います。前例として、蟲師のギンコの声なんかがあると思います。
さて、音楽でもう1つ注目なのがテーマソング。エンディングにかけて流れるわけですけど、これがまた涙腺をぐりぐりと緩めるわけです。涙した理由の半分はこれなんじゃないかなと思います。
ストーリーについてはイデオロギーが絡むと面倒な題材でもあるのであまり深く分析するには向かないと思います。実在の人の半生があり、架空の恋愛ドラマが折り重なっているわけですから、完全なオリジナルとは言えないわけですし、要素だけみればどこかで何度も使われているようなプロットでもあると思います。
戦前の日本は遠いようで、私にとっては実は祖父母が生きた時代でもあり、実はそこまで遠くなく、遠くても地続きだったのだのだなぁとつくづく思いました。震災と不況になぞらえて、今現在の日本の状況との呼応している部分があると言う見方もありますが、だからといって戦争がすぐ始まるわけではないでしょうが、それはそれとして、歴史の教科書にはない人独りの人生を知っておくのも大事なことだなぁと改めて思います。
ミクロな視点では、夢と仕事とのバランスと時代や病といった抗うことができない運命との向き合い方を考えさせられました。映画では「10年」がキーワードですけど、その10年がいままでのどの10年だったのか、これからなのか、進行形なのか、よく分かりません。そういえばとある研究室でも10年単位で仕事することがキーワードだったと思います。分かってはいるものの、実際に行動できるかどうか。それも自分次第なのですけども。
この映画に登場人物たちのように、一日一日、精一杯に、それでも淡々と生きていく姿が眩しかったです。