さぁ、さぁ、よくいらっしゃいました。
どうぞどうぞ、座ってください。
えぇ、そうです。私が人生の悩みと言うか、世の中の憂いと言うか
そういうものを聞きますので。
えぇ、聞くだけですよ。聞くのが私の楽しみでね。
本業は画廊と喫茶なんだけどね、ここへ来る人は不思議と私に悩み事を言って帰っていくのよ。
えぇ、私は別に人生経験豊富というわけでもないし、特別な能力があるわけじゃないんですけどね。
で、私の話はこれくらいにして。
何になさいます？
コーヒー？紅茶？
カプチーノですって？そんなこじゃれたものはないですよ。
じゃぁ、紅茶ね。ミルクと砂糖は？レモンはちょうど切れちゃったわ。
さてさて、私は聞くだけですから、あなたのペースで話してください。
えぇ、あらまぁ。旦那さんが浮気ですか。
かまってもらえなくて寂しいと。
でしょうね。主婦はたいてい寂しいものです。
お子さんは？いらっしゃらない。
作る予定がないということ？
あぁ、そもそもできる環境じゃないのね。
まぁ、そうね、浮気してるんじゃ、仕方ないわね。
浮気相手は？
あぁ、職場の若い子。
男も女も若い方がいいものね。
旦那さんは気づいているの？
バレてないと思ってるらしい、と。
あなたは旦那さんのことを鈍感かと思うかもしれないけど
実は男の方が勘がいいから、うすうすバレてることに気づいているはずよ。
要はタイミングね。きっかけがないんじゃない？
旦那さんは話を切り出す勇気がないのね。
うん、そうでしょ。そうなのよ。
男ってそういうものよ。
あら、どうやら浮気だけじゃなさそうね。
あててみましょうか？
あなたも余所に男いるでしょ。
え？ほんとに？
いや、なに、あてずっぽうよ。
えー、うそー、ほんとに、あなたも浮気してるの？
こりゃ最悪だわね。
で？
大学の時に同級生だった人？
で、妻子もち？
あらら、不倫じゃない。
ちょっとした遊び心でしょ？
うん、うん、そういうのをアバンチュールっていうのよ。
女はいつも愛されてなきゃ。
そういう気持ちは分かるわ。
ふふふ。私もね、不倫したことあるのよ。
女学生時代にね、妻子がいる先生と恋に落ちたことがあったわぁ。
夢のように幸福だったけど、やっぱり長くは続かないものね。
否、続かないから良いのかもしれないわ。
あなたも早くその関係をおしまいにした方がいいわ。
うん、そうよ。ずるずる引きずると手に負えなくなるわよ。
ところで、結婚何年目？
そう、3年目。
今まで喧嘩らしい喧嘩なかったんじゃない？
うん、うん。
夫婦ってね、人生で一番長く一緒に生きていく関係なのよ。
あくまで普通の夫婦の話よ。
一緒に添い遂げるまでに、いろんなことがあるわよ。
それを乗り越えていくのが夫婦なんじゃない？
でも、本当に相性が悪かったら無理して一緒にいる必要なんてないのですけどね。
あら、もうこんな時間になってしまったわね。
今日は電車で？そう、気をつけてお帰りくださいね。
お会計？いらないわ。
だって、あなたちっとも口をつけてないじゃない。
あとでそれ私がいただいちゃっていいかしら？
うん、ありがとう。
まぁ、まずは二人でちゃんと話し合うことね。
ちゃんと向かい合ってね。
それもいきなりで難しいかもしれないから
まずは挨拶よ。
「おはよう」「おやすみ」
これだけちゃんと言うのよ。
そうすれば旦那さんもちゃんと振り向いてくれるわ。
うん、うん。
じゃぁ、気をつけてね。
今度は絵を観にいらしてね。
私の大好きな絵の説明をさせてもらうわ。
ではでは。
さようなら。
（※フィクションです。ステレオタイプな人生相談）