ロンドン五輪サッカー雑感

結果としては男子は4位、女子は2位となりました。
男子は開催前はGL突破すら不安視されてましたが、蓋をあけてみればあれよあれよと勝ち進み、まさか3位決定戦で日韓戦になるとは夢にも思いませんでした。残念ながらメダルには届かなかったですが、前評判を考えればすばらしい結果だったと思います。
女子の方は金メダルを誰もが期待していたのですが、惜しくも銀メダル。内容の方はW杯の時よりも数段レベルアップがしている印象でした。まさにチャンピオンにふさわしい強さがあったように思います。
周りを見渡せば男子と女子でベスト4に入っている国は日本しかいないのですから、サッカー界としては贅沢なため息なのかもしれません。確かに敗戦は悔しいけれども、長期的にはとしても日本のサッカーの先行きは明るいと思います。
極力、試合は見ることができたのでそれぞれの試合や個々人の雑感は下記に。


■男子 GL スペイン戦
すべてはここからスタートしました。快進撃の始まりであり、ある意味勘違いの始まりであったかもしれません。相性がよかったのか、結果だけみればスペインを買いかぶってしまっていたのか、奇跡とは言わせないような大津の決勝点で勝利しました。スペインのDF陣がいまいちだったということもあるのですけど、あとは相手に退場者が出たことで試合を優位に進められたと思います。
■男子 GL モロッコ戦
この試合はとても見応えがありました。戦術的にも似たようなチームでガチンコ対決でした。勝負を分けた点があるとすれば、ベンチワークで、モロッコは日本にとってはやっかいだった9番を下げたことで若干救われました(モロッコとしてはもっと危険な選手を入れたつもりだったんだろうけどそうはならなかった)。日本は我慢して永井を残していたことで決勝点に繋がりました。これで永井を使う戦術にも手応えを得た一戦だと思います。
■男子 GL ホンジュラス戦
ムードは完全に消化試合。けれども1位通過したいということで勝ち点1は死守したいということで、CBはフルメンバーで他はほぼサブ組でした。思えばここで鈴木を休ませてあげられれば後々楽だったのかもしれないですが。内容としては緩いもので悪く言えばダルい試合でした。これも後で思うことですが、ここで攻撃陣のサブ組が奮起できなかったのが、後々のスタメンを固定せざるを得なくなった遠因なのかなとも思いました。そして無事に1位通過を決めて、次戦はエジプト。
■男子 準々決勝 エジプト戦
結果としては3対0の快勝。なのですが、またもや相手に退場者が出たことで当然の結果とも言えます。逆に言えばスペイン戦はなぜもっと差をつけられなかったのか。最後の方は交代枠使い切った後の負傷で実質9人になってしまっていましたし、ちょっと同情してしまうというか。また、永井と東の怪我もあり、あまり素直に喜べない試合でした。
■男子 準決勝 メキシコ戦
メキシコは前評判が高く、GLでも2勝1分けと危なげなく突破し、準々決勝は延長戦ですがセネガルを4対2で下しています。
失点も少ないですし、攻撃力はある。つまりかなりの強敵です。
日本の方は総力戦で臨むしかなく、とはいえスタメンはいつも通り。スペイン戦やモロッコ戦のような戦い方ができればいい勝負になるはずでしたが、大津の先制点まではよかったのですが、徐々に揺さぶりをかけていきCKから失点すると、いっきに失速してしまいました。ミスからとはいえ結果としてさらに2失点してしまい、力負け・走り負けした印象でした。五輪開幕前にテストマッチを組めたことが好材料になるはずでしたが逆に戦い方を処方されてしまったのか。
印象的だったのが、メキシコはエース格だったドスサントスをデキが悪いってことで後半早々に交代させてしまいました。その反面、日本は手負いの永井を最後の最後まで残していました。こういうベンチワークは試合展開にもよるのですけども、ある意味賭けだったなぁと思います。
■男子 3位決定戦 韓国戦
途中まではある意味緊張感があった試合だったのですが、ちょっと乱闘騒ぎになった後、(主審がうまいこと試合をコントロールした結果)韓国の方が比較的落ちつきを取り戻して、いかにも韓国らしいというかオーソドックスというかパワープレーに転じてきました。最初の失点は事故みたいなものでしたけど明らかに力負け。2点目もきれいな形で決められてしまいました。この年代のユース時代を知っている人からみれば(2009、2011とワールドユースのアジア予選でいずれも韓国に敗れた)、圧倒的な差だったものから背中が見える差までは縮まったような感はありますが、まだまだ差があることは明らかでした。(アジア予選の大迫システムだったら遅攻でもなんとかなったかもと思ったり)
また、このタイミングで外野が余計なことをしたためいろいろ遺恨が残ってしまいましたけども、そのことさえなければ、試合終了後はJリーガーも何人かいたため顔見知りだったということもあり、選手同志がユニフォーム交換をしたり互いの健闘をたたえていたので、日本としては大変悔しい思いをしましたけど、スポーツとしては清々しく終われたのではないかなと思います。(あの件さえなければね)
■男子サッカーの総括
開幕前はまったくもって期待していなかったので、関塚さんには土下座して謝らなければなりません。すみませんでした。永井や大津の株が急上昇ですが、個人的に注目・賞賛したいのは東と徳永です。東と清武はボランチ並みに守備に貢献していましたし、大きな特徴はないものの安定したパフォーマンスを発揮できる点ではA代表でいうところの長谷部や細貝のバックアップにもってこいなのかなと思います。徳永はOAながらも要所要所でいい仕事をしていました。大会前に注目していた扇原への期待は変わらないものの、A代表にはまだちょっと遠いかなという印象です。いい仕事してたんですけどね。
■女子 GL カナダ戦
初戦ということで最初はスムースにパスが繋がらずちぐはぐな感じがしましたが、徐々にリズムを取り戻しあれよあれよと川澄が先制点を奪取。端から見ていると「あそこにパスでるだろー」って分かりやすいんですけど、女子サッカーはそれが難しいというか、逆になでしこはできてしまうというか、とても見ていて気持ちのいい得点でした。宮間の2点目はごっつあんゴールでしたけど、その後に1点を返されひやひやしながら逃げ切りましたから、本調子ではないものの流石なでしこサッカーという感じでした。
■女子 GL スウェーデン戦
こちらは見れず。強豪と呼ばれるところですし、参加チームが少ない関係で決勝トーナメントへは男子よりはゆるい条件で進めるということもあり、引き分けでOK(あわよくば勝ち)といった感じだったのではないかと思います。澤が後半早々に交代していますから、攻撃のリズムがうまく作れなかったのかなとも思います。
■女子 GL 南アフリカ戦 と 引き分け狙い発言
この試合も見れず。難無く引き分けました。ただし、この試合後ひともんちゃくありました。すでにその騒動は水に流されたような雰囲気ですが、決勝トーナメントの組み合わせを考慮しこの試合でわざと引き分けを狙ったという点について、「フェアプレーではない」とか「チャンピオンのおごりだ」とか「八百長だ(意味が全然違うんだけども。。。)」とか結構非難の声があがりました。個人の見解としては引き分け狙いについては問題なしと考えています。
ちょうど同じタイミングでバドミントンで無気力試合がありそれらといっしょくたに扱われてしまいましたが、引き分けを狙うのとわざと負けるのとでは意味・難易度が違います。もし、この試合で勝ち点ゼロにしなければならないという状況だった場合、サッカーでは負けようと思えばほぼ確実に負けることができます。オウンゴールを量産すればいいので(過去にそれで処分されたチームがありましたが)。引き分けを狙うとなった場合、ざっくりいうと50%の確率で負けるリスクも伴うんですね。野球でいうところの満塁作に近いものだと思います。
これに似た話がサッカーではありまして、Jリーグにはベストメンバー規定というのがあります。簡単にいうと「毎試合ベストメンバーで試合に臨め」という規定です。ただし、これは現実的には運用は判断が難しく、野球でいえば消化試合でもベストメンバーで戦いなさいという意味に近いです。チームの事情によってはカップ戦には若手を起用したり、疲労が蓄積していれば控えメンバー中心で戦ったり、その辺りはマネジメントの範囲内だと思うのです。
翻って、なでしこの引き分け狙いというのもこのマネジメントの範囲内であることは言わずもがなだとは思うのですが、ポイントとしては佐々木監督がわざわざ「引き分けを狙った」と発言した点にあります。「いや、みんな分かってるから」という感じではあったのですが、佐々木監督の事ですから何か意図があってのこと。推察するに、引き分け狙いについて一部から批判されることは承知で、陰口をささやかれるよりは「監督の指示だった」とおおぴらにした方が、批判の矛先が選手やチーム全体ではなく監督個人に集中させることが目的だったのかもしれません。
■女子 準々決勝 ブラジル戦
狙い通りといいますか、準々決勝の対戦相手はブラジルとなりました。女子のブラジルは侮るなかれ、かなりの攻撃力を持っています。キックの威力とスピードなんかは軒並み男子並です。それを見越した上で、なでしこは完全にカウンターのみを狙っていました。いずれの2点もカウンターからの得点で、亀のように固まってはチャンスがあると2~3人で一気にゴールに迫るといった攻撃を繰り返していました。ある意味相手の戦い方に合わせて勝利をもぎとりました。
■女子 準決勝 フランス戦
開幕前の前哨戦で敗戦しているのでやや嫌な予感がしていましたが、結果だけみればあっさりと勝ってしまったようですけども。フランスは日本とタイプが似ている上、体格やキック力は欧米標準ですからかなりやりにくいです。ここでもなでしこは変えざるをえなかったのですが、流れの中からなかなか得点には結びつきそうにありませんでした。そこで狙っていたというセットプレー2発。圧巻でした。宮間姐さんのキックが正確すぎて泣けてきます。
■女子 決勝 アメリカ戦
W杯と同じ顔ぶれになりましたが、結果は2対1の惜敗。内容だけ見ればW杯の時よりはかなり良かったと思います。W杯の時はまるで勝てる気がしない状態から澤の奇跡的なゴールで同点に追いつきましたけど、今回の試合は「勝てた試合だった」と誰もが感触を得ていたと思います。それくらい惜敗でした。
■女子サッカーの総括
結果は惜しくも銀メダルでしたが、なんだかんだで初メダルですし前評判通りの結果だったと思います。心配ごとといえば澤姐さんの後継者。若干調子を落とした試合もありましたが、試合の要所で攻撃でも守備でもいい仕事をしていました。技術と経験が伴ってこそだとは思いますが、あの活躍を見てしまうとすぐに後継者だとか代わりの選手はなかなか現れなさそうな気がしてしまいます。キャプテンの宮間はちょっとタイプが違いますし。若手の有望株は何人かいますけどまだまだ未知数ですし。U-20のW杯もあるので若手の台頭を楽しみにしておきたいと思います。
■改めてまとめ
まぁなんというか充実したオリンピックだったと思います。男女で決勝トーナメントに残っていたのは日本とブラジルとイギリスですし。ベスト4に絞れば日本だけです。端からみれば「日本はどんだけサッカー人口多いんじゃい」って感じですけど、男女均等にサッカーに強化されたと考えれば日本のサッカー協会の方針も間違っていなかったんだなぁと思いました。
さて、次は男子はブラジルW杯予選の後半戦です。U-23世代が合流してくると思うので楽しみにしておきたいと思います。女子の方はU-20のW杯ですかね。